JCA/BOLLETTINO/TECNICA
国内イタリアン料理人によるカルボナーラ調製技術の整理
【要旨】本稿は、国内で活動するイタリアン料理人4名(弓削啓太、日高良実、小倉知巳、桝谷周一郎)がYouTubeに公開したカルボナーラの調製動画を整理し、技術要素ごとに比較記録するものである。豚肉加工品の選択と処理・卵液の構成比率・生クリームの使用の有無・卵の火入れ制御の4点を軸に差異を整理した結果、料理人間に明確な手法の相違が確認された。本協会はいずれかを規範とする判断は行わない。
1. 記録の目的と対象
本稿は、国内のイタリアン料理人が公開したカルボナーラの調製手法を収集・整理し、技術要素ごとに記録することを目的とする。
対象とした料理人は以下の4名である。いずれもYouTubeチャンネルにおいてカルボナーラの調製動画を公開している。
| 料理人 | 肩書き・来歴 | 店舗 |
|---|---|---|
| 弓削啓太 | 2019年バリラ主催「パスタ・ワールドチャンピオンシップ」優勝。カナダでのワーキングホリデーを機に料理の世界へ。東京でのフレンチ修行、パリの三ツ星「ギ・サヴォワ」での修行を経てイタリアンに転向。横浜サローネ2007の料理長を経て独立 | Da YUGE(京都・烏丸御池、2026年4月開業) |
| 日高良実 | イタリアで3年間・14軒にわたる修行を経て1990年に「ACQUA PAZZA」を開業。南イタリアの郷土料理を中心とした本格イタリア料理の普及に取り組む。2022年、厚生労働省認可「現代の名工」に選出 | アクアパッツァ(東京・南青山)、アクアマーレ(横須賀市) |
| 小倉知巳 | 東京・参宮橋のイタリアン「Regalo」シェフ。YouTubeにて「イタリアンプロ養成講座」として196回以上の調理技術動画を公開 | Regalo(東京・参宮橋) |
| 桝谷周一郎 | 16歳から料理の道へ。北京のイタリア料理店でのシェフ経験を経て、1998年に代官山で「オステリアルッカ」を開業 | オステリアルッカ♡東4丁目(東京・広尾) |
2. 参照資料と調査方法
本稿の記述は、各料理人のYouTubeチャンネルに公開された動画の内容に依拠する。本協会による実地調査・試食評価・店舗取材は行っていない。したがって、各手法の記述は公開動画が示す内容の整理であり、本協会が独自に検証した事実の提示ではない[註1]。
3. 料理人別の調製概要
3-1. 弓削啓太 ― エルボマカロニを用いた応用展開
弓削氏は、ロングパスタではなくエルボマカロニ(いわゆるサラダマカロニ)を用いたカルボナーラを公開している。マカロニのチューブ状の穴の内側に卵液が入り込むことで、噛んだ際にソースが溢れ出す食感を意図した設計である。同氏はパリ修業時代の賄い料理(バター和えエルボマカロニ)からの着想であると述べている。
豚肉加工品にはスライス生ハムを用いる。弱火でじっくり炒めてカリカリに仕上げた後、半量をトッピング用に取り分ける。卵液は全卵と粉チーズを合わせたものを使用し、生クリームは使用しない。火入れはフライパンを火から外した状態で卵液を加え、極弱火で継続して混ぜる余熱仕上げである。
なお、余ったカルボナーラに白ワインビネガーを加えると卵と油脂が乳化し、マカロニサラダのベースに転用できる副次的な活用法も示している。
3-2. 日高良実 ― 季節素材との組み合わせと生クリームの意図的使用
日高氏は、国産グリーンアスパラガスを組み合わせた春季の調製例を公開している。アスパラガスは茹でずにフライパンで強火で焼くことで、香りと旨味を閉じ込める手法をとる。焼き色がついた後、パスタの茹で汁を加えて蒸し焼きにし、中まで火を通す。仕上げにパルミジャーノ・レッジャーノと黒胡椒を加え、レモンゼスト(レモンの皮)を削ることで濃厚さを和らげる。
卵液は卵黄と生クリームを合わせたものを用いる。同氏は「本場ローマのカルボナーラには生クリームは使わない」と明示した上で、「あえて使用する」と述べており、個人の嗜好による意図的な選択として記録されている。火入れはフライパンを火から外した状態で卵液を一気に加え、余熱とごく弱火でゆっくり仕上げる方式である。
3-3. 小倉知巳 ― 自家製グアンチャーレの製造と使用
小倉氏は、市販の豚頬肉が日本の流通規格では脂が取り除かれすぎているという問題意識から、脂が豊富な豚トロ(首肉)を代用素材としてグアンチャーレを自家製する手法を公開している。
製造工程は以下の通りである。豚トロ1kgに対して塩20g・砂糖4gを全体に刷り込み、ラップに密着させて冷蔵庫で1週間塩漬けする。水分を拭き取った後、冷蔵庫内で3週間以上乾燥させる。乾燥方法として自然乾燥・タコ糸巻き成形・ピチットシート(脱水シート)の3パターンを比較検証した結果、自然乾燥による仕上がりを最良と評価している。日本家庭での生食は安全性の観点から推奨しないと明示している。
完成したグアンチャーレを用いたカルボナーラでは、グアンチャーレを大きめにカットし、油をひかずに弱火で加熱して脂を引き出す。フライパンを煽って温度を下げてから卵液を加え、余熱でとろみをつける手順をとる。パスタはガロファロ1.7mmスパゲッティを使用し、卵黄・パルミジャーノ・レッジャーノ・生クリームの3点を合わせた卵液を用いる。
3-4. 桝谷周一郎 ― 鶏肉を用いた家庭向け展開
桝谷氏が公開した手法は、グアンチャーレ・パンチェッタ・ベーコンのいずれも用いず、鶏もも肉とブロッコリーを加えた構成である。同氏本人が「カルボナーラ風」と称しており、家庭での短時間調製(目安7分程度)を目的とした展開として位置づけられる。
卵液は全卵・粉チーズ・無塩バターをボウルに準備し、規定時間より30秒短く茹でた熱いパスタを直接加えてバターの余熱で溶かす方式をとる。フライパンで加熱する工程を経ないため、卵の固まりを防ぎやすい手順設計となっている。にんにくを使用する点も特徴である。鶏もも肉は皮面から中火で焼き色をつけ、途中で取り出してひとくち大にカットしてから戻す。
4. 技術要素の比較
| 技術要素 | 弓削啓太 | 日高良実 | 小倉知巳 | 桝谷周一郎 |
|---|---|---|---|---|
| パスタの形状 | エルボマカロニ | スパゲッティ | スパゲッティ 1.7mm(ガロファロ) | スパゲッティ |
| 豚肉加工品 | スライス生ハム | 不使用 | 自家製グアンチャーレ(豚トロ代用) | 不使用(鶏もも肉で代替) |
| 卵の使い方 | 全卵 | 卵黄のみ | 卵黄のみ | 全卵 |
| チーズの種類 | 粉チーズ(種類は記載なし) | パルミジャーノ・レッジャーノ | パルミジャーノ・レッジャーノ | 粉チーズ(種類は記載なし) |
| 生クリーム | 不使用 | 使用(意図的) | 使用(少量) | 不使用 |
| バター | 不使用 | 不使用 | 不使用 | 使用(卵液に含める) |
| 卵の火入れ制御 | 火から外して余熱・極弱火 | 火から外して余熱・ごく弱火 | 煽って冷ましてから余熱 | ボウルにパスタの余熱で和える |
| にんにく | 不使用 | 任意(本人は入れ忘れ) | 不使用 | 使用(2片、手で潰す) |
5. 考察
4名に共通する技術的課題は卵の過加熱防止であり、手法は異なるものの「火から外す」「余熱を活用する」「加える前に温度を下げる」という対処がいずれかの形で採られている。この点は、カルボナーラの火入れ制御が料理人の流派を問わず中心的な課題であることを示している。
豚肉加工品については、グアンチャーレ(自家製)・生ハム・不使用(鶏肉または季節野菜で代替)と大きく異なる。小倉氏による自家製グアンチャーレの製造は、日本の流通上の制約(豚頬肉の脂分が不十分)への技術的対応として記録する価値がある。
日高氏による生クリームの意図的使用は、本場の慣行との差異を自覚した上での選択として明示されており、「本場に倣うか否か」が単純な正否の問題ではなく、調理者の嗜好と意図に依拠することを示している。この構図は、本協会綱領第二条(生クリームの有無について判定しない)の根拠と重なる。
桝谷氏の手法は、豚肉加工品を欠き「カルボナーラ風」と本人が称している点で、構成要素の観点では変形例として扱われる。ただし、家庭での調製可能性という文脈では別途の評価軸が適用されうる。
6. 結論と今後の課題
国内で活動するプロ料理人の間でも、カルボナーラの材料構成および調製手法には明確な相違が存在する。生クリームの使用・豚肉加工品の選択・卵液における全卵と卵黄の比率・バターの使用の有無などの各点において、単一の「正解」に収束していない状態が確認された。
本稿は動画メディアを通じて公開された情報の整理にとどまるため、実際の店舗での調製とは差異が生じる可能性がある。対象も4名に限られており、国内全体の状況を代表するものではない。今後は対象料理人の拡充、および店舗での実態調査を課題として挙げる。
NOTE / 註
- 本稿の各記述は、各料理人のYouTubeチャンネルに公開された動画の内容を整理したものである。本協会による実地調査・試食評価・店舗取材は行っていない。本稿中の「確認された」との表現は、公開動画において当該内容が示されていることを指す。
BIBLIOGRAFIA / 参考文献
- 【パスタ世界一が作る!】新感覚カルボナーラ&激旨アレンジレシピ!(弓削啓太(YUGETUBE)) — 2026-08時点
- 【シェフのパスタ料理】アスパラ好き必見パスタ!春アスパラガスとカルボナーラ風スパゲッティ(日高良実のACQUAPAZZAチャンネル) — 2026-08時点
- イタリアンシェフが教える豚トロで作る自家製グアンチャーレ【イタリアンプロ養成講座 vol.196】(小倉知巳のイタリアンプロ養成講座) — 2026-08時点
- 【7分でカルボナーラ!?】和えるだけで作れる!簡単&早い!なのに超うまい!カルボナーラ風チキンパスタ(桝谷のSimple is best) — 2026-08時点
本協会が独自に測定した数値ではない。各文献の公表内容を整理したものである。