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JCA/BOLLETTINO/CULTURA

CULTURA / 文化 2026.07.23 記録:協会事務局

カルボナーラの成立と構成の変遷に関する資料整理

【要旨】カルボナーラの起源については、ローマ発祥説、連合軍の配給に由来する説、それ以前からの存在を主張する説が並立している。本稿はいずれの説の当否も判定せず、公表資料に現れる記述を年代順に配列することを目的とする。整理の結果、第一に、料理名の初出と網羅的料理書における不記載とが年代的に整合しないこと、第二に、現在「古典的」と説明される材料構成が1990年代に収束した比較的新しい枠組みであることが確認された。

1. 問題の所在

カルボナーラの起源は、しばしば議論の対象となる。ただし議論の多くは、いずれの説が正当かという形式をとる。本協会は綱領第二条により、この形式の問いには回答しない。

本稿の目的は、起源の特定ではなく、資料の配列にある。公表されている記述を年代順に並べ、何が記録として残り、何が残っていないかを明示することを試みる。結果として浮かび上がるのは、発生時点の特定という問題よりも、この料理の材料構成が長期にわたり変動してきたという事実である。

2. 資料と方法

本稿が用いたのは、公表済みの二次資料である。原資料にあたる調査は行っていない。したがって本稿の記述は、各資料が報告する内容の整理であり、本協会による検証を経た事実の提示ではない[註1]

資料の性質上、年代や書誌情報には資料間で差異が生じる場合がある。差異が確認された箇所は、いずれかに統一せず併記する方針をとった。

3. 名称の語源をめぐる諸説

carbonara は「炭焼き職人(carbonaro)風の」を意味する語である。この語義から、以下の説が提示されてきた。

  • アペニン山中の炭焼き職人が、保存性の高い材料により調製した食事に由来するとする説
  • 黒胡椒の外観が炭の粉に類似することによるとする説
  • 19世紀の秘密結社カルボナリとの関連を想定する説

いずれも語義からの推論であり、同時代の記録による裏づけを伴わない。本稿はこれらを語源に関する仮説として扱い、料理の発生を示す証拠としては扱わない。

4. 先行する調理法の記録

卵とチーズによりパスタのソースを構成する手法は、当該名称の出現以前から記録されている。

資料記載内容
1881年 Francesco Palma『Il Principe dei Cuochi』(ナポリ) 「Maccheroni con cacio ed uova」。卵、チーズ、ラード、塩、胡椒による。豚頬肉の使用はない
1931年 イタリア・ツーリングクラブ案内書 ウンブリア州カーシャおよびモンテレオーネ・ディ・スポレート周辺の料理として、溶き卵と豚肉(脂身および赤身)を合わせるパスタを記載

これらは名称の上では当該料理と一致しない。ただし、卵・豚脂・チーズという組み合わせが単一の地点で突発的に成立したものではないことを示唆する。

5. 名称の初出

年月日資料記載内容
1939年8月23日 De Koerier(オランダ語新聞) ローマ特派員 Nora Koch Berkhuijsen による、サンタ・マリア・イン・トラステヴェレ広場の食堂に関する記事中に「spaghetti alla carbonara」の語が現れる。「炭焼き職人の妻が作るように」との形容を伴う一行のみで、調理法の記載を欠く
1948年5月1日 トリエステの新聞 同広場に関連して当該名称に言及。材料の記載を欠く
1950年7月26日 La Stampa(トリノ) トラステヴェレの店舗 Da Cesaretto alla Cisterna において、アメリカ軍将校が当該料理を求めたとの記述

6. 不記載という資料

起源の検討においては、記載の不在もまた資料として機能する。

1929年刊行の Ada Boni『La Cucina Romana』に、当該料理の記載はない[註2]。同書は失われつつあるローマの料理を収集する目的で編まれたものであり、カーチョ・エ・ペペは収録されている。網羅性を意図した同時代資料における不記載は、戦後成立説の根拠として参照される。

ただしこの不記載は、第5節に示した1939年の記事と年代的に整合しない。本稿はこの不整合を一方に解消せず、そのまま記録する。

7. 最初期の調理法記録

調理法を伴う資料は1952年以降に現れる。

年月資料材料構成
1952年4月 La Croix du Nord(フランス北部)/Aldo Fabrizi に帰属 ラード、パルミジャーノ、油、バター
1952年12月 Patricia Bronté『Vittles and Vice』(シカゴ) タリアリーニ、イタリア産ベーコン、卵、パルミジャーノ。黒胡椒の記載を欠く
1954年8月 La Cucina Italiana(イタリア) パンチェッタまたはグアンチャーレ、グリュイエール、にんにく、卵、胡椒

現在ローマの古典的構成として説明されるグアンチャーレとペコリーノ・ロマーノの組み合わせは、この三資料のいずれにも揃って現れない。チーズはパルミジャーノおよびグリュイエールである。

8. 構成の変遷(1960年〜1990年代)

参照した研究によれば、当該期間の刊行レシピには顕著な幅が認められる[註3]

1960年の Luigi Carnacina『La grande cucina』は、パンチェッタに代えてグアンチャーレを指定した最初の刊行レシピとされる。同レシピは、油、バター、全卵、パルミジャーノとともに、液状の生クリーム数さじを含む。

生クリームを含むレシピはその後も継続して現れる。Millericette(1965年)、Gosetti della Salda(1967年)、Carnacina の別著(1971年)、Monti Tedeschi(1986年)、Gualtiero Marchesi(1989年)等である。量的な頂点は1980年代にあり、1990年代半ば以降に排除される過程が確認されている。

このほか1960年代から1970年代前半の資料には、白ワイン、にんにく、玉ねぎ、パセリが現れる。1950年代のローマの店舗については、プロシュット、コッパ、パルミジャーノ、きのこを用いた例も報告されている。

グアンチャーレとペコリーノの組み合わせが優勢となるのは1980年代半ば以降であり、現行構成への収束は1990年代とされる。参照した研究は、その背景として、同一材料を用いるアマトリチャーナとの対応づけ、および原産地呼称制度に象徴される地域性重視の動向を挙げている。

9. 1944年発案説の検討

ボローニャの料理人 Renato Gualandi が、1944年にリッチョーネにおいて連合軍向けの食事を調製した際に当該料理を考案したとする説がある。この説の公表は1991年の著書『Erbissima』においてであり、発案時点とされる年から約50年を経ている。

参照資料は本説について、1991年以前に裏づけとなる文書が確認されないこと、および初期の記録がいずれも当該人物に言及しないことを指摘している。本稿は本説の真偽を判定しないが、同時代資料と同等の資料的地位を与えることはできないと考える。

10. 考察 — 1939年記事の解釈をめぐって

第5節に示した1939年の記事は、戦後成立説と整合しない。ただし、この記述が何を示すかについては解釈が分かれうる。記事に含まれるのは料理名と短い形容のみであり、材料および調理法の記載を欠くためである。現在当該名称で呼ばれる料理と、1939年時点で同名により呼ばれていた対象との同一性は、この資料のみからは確定しない。

また、本記事を根拠として特定の説が否定されたとする論述も見られるが、それは資料の記述ではなく資料に対する解釈である。本稿は両者を区別して扱う。

11. 結論と今後の課題

本稿の整理から、以下の点が確認される。

  1. 当該名称を記した文書は1939年まで遡って確認される。
  2. 卵・豚脂・チーズを合わせる調理法は、それ以前から別称のもとに記録されている。
  3. 刊行資料上、材料構成は1950年代から1990年代にかけて変動を続けた。
  4. 現在「古典的」と説明される構成は、1990年代に収束した枠組みである。

他方、確定しない点も明示しておく必要がある。すなわち、誰がいつ最初に調製したかである。本稿が挙げた資料はいずれも、料理が既に存在したことを示す記録であり、発生時点を記録したものではない。本協会は、この問いに現時点で結論は得られていないという整理にとどめる。

第4項は、本協会の立場に直接関係する。ある時点の構成を基準として過去または他地域を測ることは、記録を扱う立場としては行わない。綱領第二条が生クリームの有無および地域差の是非を判定しないのは、この経緯による。

今後の課題として、原資料の所在確認が挙げられる。本稿は二次資料の整理にとどまるため、原本を参照しうるものについては順次記述を改める。

NOTE / 註

  1. 本稿における「確認された」との表現は、参照した二次資料が当該事項を報告していることを指す。本協会による原本の照合を意味しない。
  2. 『La Cucina Romana』の刊行年は、資料により1929年および1930年と記される。本稿では初版年として1929年を採り、差異があることを併記する。
  3. 1960年以降の変遷に関する記述は、Luca Cesari による整理に依拠する。個々の刊行物の原本照合は行っていない。

BIBLIOGRAFIA / 参考文献

  1. Pasta alla carbonara(Wikipedia イタリア語版) — 2026-07時点
  2. La storia della carbonara — Capitolo 3. Gli anni d'oro 1960-2000(Luca Cesari, Ricette Storiche) — 2026-07時点
  3. La carbonara nasce a Trastevere. Parola d'olandese(Eat Magazine De Cecco) — 2026-07時点
  4. The Origins of Spaghetti Alla Carbonara(The Passionate Foodie, 2024年2月) — 2026-07時点

本協会が独自に測定した数値ではない。各文献の公表内容を整理したものである。

本記事について、追試の結果や訂正のご指摘を受け付けています。認定店からの記録提出も随時受け付けています。

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